ビカクシダのハダニで最初に知っておくべきことは、オルトランが効かないということです。 オルトラン(アセフェート)は殺虫剤で、ハダニは適用害虫に入っていません。カイガラムシの感覚で撒いても密度は下がらず、その間に増え続けます。ハダニに必要なのは「殺ダニ剤」と明記された薬剤です。
もう一つ、日本の栽培環境に固有の原因があります。冷房の風が直接当たる場所に吊るした株が、ほぼ確実にやられます。 ハダニは高温乾燥で爆発的に増える虫で、エアコンの風はその条件をピンポイントで作り出すからです。この記事では症状の見分け方、薬剤の輪番の組み方、そして葉水による予防までを順に説明します。
まだ虫の種類が確定していない場合は、先にビカクシダの虫対策ガイドでカイガラムシ・コナカイガラムシ・アザミウマを除外してください。茶色い動かない粒であればカイガラムシ駆除ガイドのほうです。
ビカクシダのハダニの症状はどこに出るか
ハダニは0.5mm以下で、肉眼では「動く点」にしか見えません。先に見えるのは虫ではなく被害のほうです。
| 見えるもの | ハダニ | 他の原因 |
|---|---|---|
| 白〜黄色の細かいカスリ | 典型的な初期症状。葉の表面が粉を吹いたように退色する | 葉焼けは面で退色し、カスリ状にはならない |
| クモの巣状の細い糸 | 中〜後期。切れ込みの間に張る | ほかにない。これが出たら確定 |
| 葉裏の赤茶色い点 | ミカンハダニ・カンザワハダニなど | — |
| 白いティッシュで拭くと赤茶の筋 | 確定 | 星状毛は白〜銀色で、拭いても筋にならない |
| 葉全体が乾いてパリパリ | 重度。吸汁で水が上がっていない | 水切れでも起きる。葉裏を必ず確認 |
必ず胞子葉の裏を見てください。 ハダニは葉裏に集中し、表からは被害しか見えません。ビーチーやウィリンキーのような銀葉系は表面が星状毛で覆われているため、初期のカスリが毛に紛れて非常に見えにくくなります。銀葉系こそティッシュ拭きの確認を習慣にしてください。
貯水葉が茶色くなるのはハダニとは無関係で、多くの場合は正常な老化です。判断に迷ったら貯水葉が茶色くなる原因を確認してください。
なぜエアコンの風が当たる株ばかりやられるのか
ハダニは気温25〜30℃・湿度50%以下で繁殖速度が最大になります。卵から成虫までおよそ10日、条件が良ければ1匹のメスが100個以上産みます。つまり2週間放置すると桁が変わります。
日本の夏の室内は、この条件を人工的に作り出しています。
- 冷房の風が直接当たる:局所的に湿度が下がり、葉面が乾き続ける。最悪の設置場所です
- 梅雨明け直後:湿度が急落する時期で、毎年ここから相談が増えます
- ベランダの西日側:高温と乾燥が重なる
- 屋外株の取り込み時:屋外で付いた個体を室内に持ち込み、乾いた室内で一気に増える
いま8月後半であれば、屋外で夏を越した株を室内に戻す前の点検が最優先です。取り込んでから気づくと、室内の他の観葉植物すべてに広がります。ハダニは風と衣類で簡単に移動します。
ビカクシダのハダニ駆除の手順
1. 隔離する。 ほかの植物から離してください。ハダニは歩いて、また風に乗って移動します。
2. シャワーで物理的に落とす。 板付け株はそのまま浴室に持ち込み、葉裏を中心にぬるま湯のシャワーを強めに当てます。これだけで個体数は大きく下がります。ハダニは水に弱く、水流で流されると自力で戻れません。水苔が水を吸って重くなるので、その後は風通しの良い場所でしっかり乾かしてください。乾かないまま放置すると今度は根腐れになります。
3. 殺ダニ剤を散布する。 葉裏に届くように、下から吹き上げるように散布します。表だけに撒いても効きません。
4. 5〜7日おきに、系統を変えて3回。 ここが最も重要です。多くの殺ダニ剤は卵には効きません。生き残った卵が数日後に孵化するため、1回で終わらせると必ず再発します。
5. 1か月は毎週、葉裏を確認する。 再発の兆候はカスリの再出現です。
[!IMPORTANT] ハダニは薬剤抵抗性が非常につきやすい害虫です。同じ薬を連続で使うと数世代で効かなくなります。3回の散布は必ず違う系統の薬剤を回してください。同じ商品を3回使うのは、耐性個体だけを選抜して増やす行為になります。
ハダニに使える薬剤とオルトランが効かない理由
まず効かないものから。オルトラン粒剤・DX粒剤・水和剤はハダニに効きません。 アセフェートは殺虫剤であり、ハダニはダニ目(クモに近い)で昆虫ではないため、適用害虫として登録されていません。ビカクシダで「虫が付いたのでとりあえずオルトラン」という対処が最も多い失敗です。カイガラムシには有効ですが、ハダニには別の薬が要ります。
| 薬剤 | 系統・作用 | 卵への効果 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 粘着くん液剤 | でんぷん・物理的窒息 | あり(被膜) | 抵抗性がつかない。輪番の軸に最適。食品由来で室内でも使いやすい |
| ダニ太郎(ビフェナゼート) | 神経作用 | 幼若期に有効 | 速効性。観葉植物に登録あり |
| バロック(エトキサゾール) | 脱皮阻害 | 卵に有効 | 成虫には効きにくいので単独では不足 |
| コロマイト(ミルベメクチン) | 神経作用 | 弱い | 速効性が高い。連用は避ける |
| ベニカXファインスプレー | 混合剤 | 限定的 | 手軽だが密度が高いと力不足 |
| オルトラン各種 | — | なし | ハダニ不適用。使わない |
現実的な輪番の一例は、**1回目に粘着くん(物理)→ 2回目にバロック(卵)→ 3回目にダニ太郎(成虫)**です。物理剤を軸にすると抵抗性の心配がなく、卵と成虫の両方を別系統で叩けます。
散布は必ず気温が下がる朝夕に行ってください。真夏の日中に濡らすと薬害と葉焼けが重なります。
酢・木酢液・牛乳・コーヒーは効くのか
検索でよく出てくる家庭用の方法について、正直なところを書きます。
- 木酢液:忌避効果がある程度で、発生してしまった密度は下げられません。さらに銀葉系では星状毛に成分が残り、葉焼けに似た斑点が出ることがあります。ビカクシダにはおすすめしません
- 酢の希釈スプレー:同様に忌避止まりで、濃度を上げると葉が傷みます
- 牛乳スプレー:乾燥時の膜で窒息させる原理で、理屈は間違っていません。ただし洗い流さないと腐敗し、貯水葉の重なりにカビを呼びます。ビカクシダは葉が重なる構造なので相性が悪い方法です
- コーヒー・洗剤:農薬登録がなく、濃度の基準もありません
同じ「物理的に窒息させる」原理なら、**でんぷん剤(粘着くん液剤)**が農薬として登録され濃度も決まっており、洗い流す必要もありません。自家製スプレーを試す理由はほとんどありません。
ハダニを再発させないために何をするか
ハダニ対策の本体は薬ではなく環境です。乾燥させないことに尽きます。
葉水を習慣にする。 ハダニは水を嫌います。日本のビカクシダ栽培では葉水が定着していますが、多くの人が葉の表にかけています。ハダニ予防としては葉裏にかけないと意味がありません。霧吹きを下から上に向けて、胞子葉の裏を濡らしてください。頻度は夏場で1日1回、朝が理想です。夜に濡らしたまま気温が下がると蒸れるので避けます。葉水の頻度は水やりガイドも参考にしてください。
冷房の風から外す。 直接風が当たる位置から移すだけで再発率が大きく変わります。サーキュレーターで部屋全体の空気を回すのは有効ですが、株に風を当て続けるのとは違います。
水切れさせない。 水ストレスのかかった株は明確に狙われやすくなります。夏は水苔が乾く速度が上がるので、間隔を詰めてください。
新しい株は2週間隔離する。 購入株とイベントで入手した株は、ほぼ必ず何か連れてきます。既存のコレクションに合流させる前に、葉裏を確認してください。
取り込み前に点検する。 屋外管理していた株は、室内に入れる直前にシャワーで葉裏を洗い流してから取り込むと、持ち込みをかなり防げます。いまの時期に効く一手です。
日常の管理全般はビカクシダの育て方(光)と肥料ガイドも合わせてご覧ください。