**ビカクシダ(コウモリラン)の子株を外す目安は、直径10cm以上・自分の貯水葉が1枚以上出ていること。**この2つが揃う前に外すと、失敗の確率が跳ね上がります。

ビカクシダを1〜2年育てていると、株元、特に茶色い貯水葉の下から、親株の小型版のような芽が出てきます。これが子株です。成熟した Platycerium bifurcatum 1株から、板付けして飾ったり、人に譲ったりできる小さなコロニーが育ちます。このガイドでは、外せる子株の見分け方、親株を傷めない切り方、そして確実に根を張らせる板付けと管理までを解説します。

なお、増やし方には株分け(子株)胞子培養の2通りがあり、どちらを選ぶかは品種で決まります。単芽性の品種は子株を作らないため、胞子以外の道はありません。

子株はいつ外せる?

すべての小さな芽が、外せる子株というわけではありません。株分けできる子株には3つのサインがあります。

サイン見るポイントなぜ重要か
大きさ直径10cm以上、理想は12〜15cmこれ未満だと、移植に耐える体力が蓄えられていない
自分の貯水葉親株とは別の、丸く茶色い貯水葉が1枚以上その裏で子株自身の根が育ち始めている証拠
根茎のつながり親株と子株をつなぐ短く木質化した部分ここを切れば、親株の中心を傷つけずに済む

3つのうち1つでも欠けていれば、あと2〜3か月そのままにしてください。早すぎる株分けが、失敗の最大の原因です。

時期については、日本では4〜6月が最適です。親株が活発に成長し、湿度も上がってくるため、子株が秋までに根を張る時間を十分に確保できます。8月下旬から9月上旬は、残暑で気温が高いうちなら第二の窓として使えます。逆に10月から2月は、多くのビカクシダが半休眠に入り、切り口が塞がるまでに何週間もかかるため避けてください。

子株を切り離す手順は?

切ったあとは1時間以内に板付けまで終えたいので、道具は先にすべて揃えておきます。

  • よく切れる清潔なナイフまたはノコギリ(70%消毒用アルコールで刃を拭く)
  • 新しい板・ヘゴ板・バスケット板付けガイドに素材の選び方があります)
  • 水苔(水で戻して軽く絞ったもの)
  • テグス、園芸用ワイヤー、または綿糸
  • 霧吹き(雨水か精製水)
  • 手袋(ビカクシダの葉は細かい毛が落ちて刺激になります)

手順は次の5ステップです。

  1. 接続部を確認する。 親株の下葉をそっと持ち上げ、子株の貯水葉が親株の根茎と接している部分を探します。目指すのは2株をつなぐ**木質化した「橋」**の部分で、緑色の生きた組織ではありません。古い株では、乾いた貯水葉を1枚めくらないと見えないこともあります。
  2. 切る前に水を含ませる。 株分けする日の朝、親株と子株の両方にたっぷり霧吹きします。水を含んだ根茎はきれいに切れ、子株の根も空気に触れたときの傷みが軽くなります。
  3. 一息に切る。 刃を子株の貯水葉の裏に差し込み、橋の部分に向けてわずかに角度をつけます。前後に挽かず、一方向に引いて切るのがコツです。挽くと組織が潰れ、腐りの入口になります。子株側の根をできるだけ多く取ることを優先し、そのために親株の外側の根茎を少し削ることになっても構いません。
  4. 根鉢を水苔で包む。 子株を貯水葉が下になるように置き、貯水葉の裏側、露出した根の全体に湿らせた水苔をしっかり当てます。厚みは3〜4cmが目安です。
  5. すぐに板付けする。 胞子葉が上向き、やや外向きになるように板へ当て、水苔と貯水葉の下縁をまたぐようにテグスを十字に掛けて固定します。指で揺すって動くようなら締めが足りません。数か月で貯水葉が板に貼り付き、そうなればテグスは外せます。

[!IMPORTANT] 親株の中心の生長点——新しい葉が出てくる、貯水葉のいちばん中心の部分——には絶対に刃を入れないでください。ここを傷めると、健康な親株でも枯れることがあります。

外したあとの6週間はどう管理する?

株分け直後の子株は、いわば集中治療室にいる状態です。大事なのは3つだけです。

  • 湿度60%以上。 他の植物とまとめて置く、加湿器を使う、明るい浴室の窓辺に置くなどで確保します。
  • 明るい間接光のみ。 弱った子株に直射日光が当たると、胞子葉が数日で焼けます。置き場所は光のガイドを参照してください。
  • 毎日の軽い霧吹きと、週1回の腰水。 水苔と貯水葉に毎日霧吹きして湿度を保ち、週に1度は板ごと外して、ぬるま湯に10〜15分浸けます。

最初の6週間は肥料を与えないでください。 子株は葉ではなく根を作り直している最中で、早すぎる施肥は新しい組織を傷めます。6週を過ぎたら、肥料ガイドの通り、薄めた液肥を月1回程度から再開します。

軽く引いてみて抵抗を感じたら、根が張った合図です。板付けから6〜12週間が目安で、その後まもなく新しい胞子葉が動き始めます。

株分け後によくあるトラブルは次の通りです。

症状考えられる原因対処
切り口の周りの貯水葉が黒くなる汚れた刃による細菌性の腐り健全な組織まで切り戻し、シナモンを塗る。水を控える
胞子葉が垂れて力がない板付け作業中の乾燥板ごと腰水し、湿度を上げる。水苔が乾ききっていないか確認
新しい貯水葉が黄色く出る光が強すぎる、または施肥が早すぎた光を弱め、水だけで流す。あと4週間は施肥しない
子株が板から落ちる固定が緩い、板の表面が滑らかテグスを十字に掛け直し、板との間に水苔を薄く挟む

根茎まで腐りが進んだ疑いがあるときは、根腐れガイドで診断してください。切り口から虫が入ることもあるため、害虫ガイドも併せて確認をおすすめします。

子株が出ないのはなぜ?

「増やし方」を調べる人がいちばん先に突き当たるのがこれです。原因は大きく2つに分かれます。

1つ目は、そもそも子株を作らない品種であること。 ビカクシダには、子株を出す多芽性と、生長点が1つしかない単芽性があります。単芽性の品種は、どれだけ健康に育てても子株は出ません。

子株の出やすさ品種
よく子株を出す(株分けが簡単)P. bifurcatumP. veitchiiP. hilliiP. willinckiiP. stemaria
ときどき出すP. alcicorneP. elephantotis
単芽性——胞子でのみ増やせるP. grandeP. superbumP. ridleyiP. wandaeP. coronarium

日本で人気のネザーランドP. bifurcatum の系統なので、よく子株を出す側です。逆にリドレイP. ridleyi)は単芽性で、いくら待っても子株は出ません。リドレイを増やしたい場合は胞子培養一択です。

2つ目は、環境が足りていないこと。 子株が出る品種なのに動かない場合、ほとんどは光量不足です。明るい間接光に移し、生育期に薄めた液肥を定期的に与えてください。株がまだ若い(貯水葉が3〜4枚以下)場合も、単に時期が来ていないだけです。翌シーズンまで待ちます。

胞子から増やすにはどうする?

単芽性の品種、あるいは一度に多数を育てたい場合は、胞子培養になります。成熟した胞子葉の裏側に茶色い胞子嚢の塊ができたら、紙の上で乾かして胞子を集め、殺菌した水苔やピートの上に播きます。

ただし時間はかかります。前葉体が出るまで2〜4週間、板付けできる大きさの株になるまで12〜18ヶ月、見応えのある株になるにはさらに数年が目安です。採取時期・水苔の殺菌・カビ対策・鉢上げのスペーシングまでの手順は、ビカクシダの胞子培養ガイドにまとめています。単芽性の品種が高価なのは、この増殖速度の遅さが理由です。

1株から始めるコレクション

元気な P. bifurcatum は、2〜3年ごとに3〜6個の子株を出します。長い板にまとめて付けたり、縦に並べて配置したりすれば、壁面を使ったディスプレイになります。1株を10年かけて丁寧に分けていけば、それだけで自分だけのビカクシダのコレクションが組み上がります。

やることは単純です。**大きさのサインを待つ、清潔に一息で切る、すぐ板付けする、早く肥料をやらない。**この4つを守れば、夏が終わる前に最初の新しい胞子葉が動き始めます。

日々の水やりの頻度は水やりガイドを参照してください。