胞子葉がまっすぐ上に立ち、先が細い指のように分かれ、葉裏が白い毛で覆われて葉脈が見えなければ、それはビカクシダ・ビーチー(Platycerium veitchii)です。 そしてビーチーに付いている「品種名」の多くは、交配でできた園芸品種ではなく、野生の産地名か売り文句です。オーバーンリバーは地名、「シルバー」は形容詞、レモイネイは純粋なビーチーではない可能性があります。
ビーチー(ベイチーとも表記されます)は、ビカクシダ(コウモリラン)の中でもとりわけ多くの名前で売られている種類で、しかも「シルバー」という言葉は、正反対の育て方が必要なウィリンキーにも使われます。この記事では、まず見分け方、次によく検索される品種名の整理、最後に育て方の順で説明します。
ビーチーの見分け方:ビフルカツム・ヒリー・ウィリンキーとの違い
ビーチーは、よく似た3種と同じビフルカツムのグループに属します。4種とも子株をよく出すので、株の数は手がかりになりません。代わりに次の点を見てください。
| 特徴 | ビーチー | ビフルカツム | ヒリー | ウィリンキー |
|---|---|---|---|---|
| 胞子葉の向き | 硬く直立し、空を指す | 弓なりから垂れ下がる | 直立、短く太い | 長く垂れ下がる |
| 葉先 | 細く指のよう | 幅広く先が丸い分岐 | 幅広く分岐が少ない | 細いリボン状に何本も分かれる |
| 葉裏の毛 | 白い毛が密生し葉脈が隠れる | まばらで葉脈が見える | まばら、濃い緑で葉脈が目立つ | 密で銀色だが、葉は垂れる |
| 全体の色 | 銀灰色から白に近い | 緑 | 濃い光沢のある緑 | 銀緑 |
| 古い貯水葉の色 | 灰色がかったピンク | 銅色がかった茶色 | 茶色 | 茶色 |
| 自生地 | クイーンズランドの半乾燥地の岩場 | オーストラリア東部の沿岸 | オーストラリア北東部 | ジャワ・バリ・東ティモール |
| 日差しへの強さ | 属の中で最も強い | 中程度 | 中程度から強い | 弱い。白く抜けて葉焼けする |
ほとんどのケースは、次の2つの確認で決着します。
- 葉の向き。 直立して銀色ならビーチー、垂れて銀色ならウィリンキーです。この区別だけで、市場で最も高くつく取り違えを防げます。
- 葉の裏。 胞子葉を裏返して、葉脈をたどれるならビーチーではありません。オーストラリアのシダ図鑑(Lucid)も同じ基準を使っていて、ビーチーは密な星状毛が「葉脈を覆い隠す」、ビフルカツムは葉脈が見える、としています。
緑っぽくだらんとしたビーチーは、たいてい別の種類ではなく光が足りないビーチーです。銀色の毛は明るい光で厚くなり、日陰で薄くなります。違う株をつかまされたと思う前に、下の銀色が薄れる原因を読んでください。
属の中での位置づけはビーチーの品種ページを参照してください。
ビーチーの品種名:オーバーンリバー・レモイネイ・リサ・ワイルドなど
どの品種名を読むときにも前提になる事実があります。ビカクシダには正式に登録された園芸品種がほとんどありません。 下の名前のほぼすべては、野生の産地名、生産者の選抜株、または売り文句です。同じ名前で売られている2株が違うこともあれば、同じ株が3つの名前で売られていることもあります。
| 名前 | 実際は何か | 見分け方 | 育て方の違い |
|---|---|---|---|
| オーバーンリバー | クイーンズランド州オーバーン川流域の野生採集株 | 小ぶりで銀色が強く、分岐が密 | やや日陰にも耐える |
| ワイルド(ワイルドAUS) | オーストラリア野生由来の系統。1クローンではない | ばらつきがあり生育旺盛 | なし |
| レモイネイ | ヨーロッパの古い選抜株。ウィリンキーとの交雑の可能性 | 背が高く細く直立し、緑が強い | 日差しに慣らすのはゆっくり |
| リサ | 生産者の選抜株 | 葉先が幅広く丸い | なし |
| ブラーム | 生産者の選抜株 | 貯水葉が広く、銀色が強い | なし |
| シェリー12 | 番号付きの選抜株 | 細く直立する | なし |
| ハイフィンガー | 売り文句 | 特に長く細い「指」 | なし |
| プミルム | 矮性タイプ | 成株でも半分ほどの大きさ | 日差しにやや敏感 |
| シルバーフロンド・「シルバー」 | 売り文句のみ | 星状毛が密なビーチー全般 | ビーチーなら、なし |
| アッキー | 交配種(シルバー系×ワイルド) | 星状毛が極端に密 | なし |
オーバーンリバー
最もよく検索され、最も誤解されている名前です。オーバーンリバーは交配品種ではなく、ビーチーの自生地の中心であるクイーンズランド州オーバーン川流域の野生株です。野生採集された1株が米国に渡って産地名で呼ばれ、その子株がタイの生産者を経て世界のコレクター市場に広まりました。生産者の間では、流域外のビーチーとは遺伝的に違うとも言われています。この独自性と、小ぶりで銀色の強い姿から、ここ数年で最も取引の多いビーチーの名前になり、新しい交配の親としてもよく使われています。
買う前に知っておきたいことが2つあります。
- 子株か実生か。 由来のはっきりしたオーバーンリバーの子株はクローンです。「オーバーンリバー実生」は種から育った株で、性質にばらつきがあります。クローンの価格を払うのはクローンだけにしましょう。
- 交配種にも名前が付く。 オーバーンリバー×マウントルイス(ビフルカツム系)のような交配種も「オーバーンリバー」の名で売られます。これはビーチーではありません。
「シルバー」「シルバーフロンド」の落とし穴
- ビーチーはそもそも「銀色のビカクシダ」です。 本物のビーチーはすべて銀色です。
- 「シルバーフロンド」は説明であって、別の株ではありません。 遺伝的に受け継がれる「シルバーフロンド系統」はありません。
- 落とし穴: 一部の店は、銀色の強いウィリンキーに「シルバーフロンド」を付けて売ります。ウィリンキーは日陰と湿度を好み、ビーチーと同じ日なたで育てるとじわじわ弱ります。支払う前に、上の葉の向きの確認をしてください。
レモイネイ
レモイネイは、19世紀にフランス・ナンシーのレモワン商会が世に出した、最も古い名前付きのビカクシダの一つです。ビーチーとして売られますが、野生のビーチーよりはっきり緑が強く生育も旺盛で、ウィリンキーの血が入っているのではと考える生産者もいます(遺伝的には確認されていません)。育て方はビーチーと同じですが、銀色が薄いぶん、いきなり直射日光に出すと葉焼けしやすいので注意してください。
緑っぽいビーチーの正体
「緑のビーチー」という別の種や登録品種はありません。緑っぽいビーチーは次の3つのどれかで、対処が違います。
| 正体 | 見分け方 | 対処 |
|---|---|---|
| レモイネイ | 買ったときから緑。背が高く細く直立、葉裏には毛がある | そのままでよい。日差しにはゆっくり慣らす |
| 光不足のビーチー | 買ったときは銀色で、室内で数か月かけて緑になった。新しい葉ほど長く柔らかい | 光を増やす。銀色は新しい葉から戻る |
| ビーチーではない(多くはビフルカツム) | 葉が弓なりか垂れていて、葉裏の葉脈が見える | ビフルカツムとして、水を多めに、日差しを控えめに |
迷ったら葉裏の確認が決め手です。葉脈が隠れていれば、色に関係なくビーチーです。銀色の似た品種の見分け方はウィリンキーの育て方と品種の見分け方でも整理しています。
ビーチーの育て方:日差し・水やり・寒さ
ビーチーの自生地は、クイーンズランドの半乾燥地の岩場です。年間降水量は約700mm(日本の多くの地域の半分以下)で、冬の夜は5℃を下回り、頭上を覆う木もありません。木の幹と同じくらい、むき出しの岩にも着生します。見分けの手がかりになる白い毛は、紫外線をはね返し、夜露を集め、水分の蒸発を抑える仕組みで、ビーチーが育てやすい理由そのものです。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 光 | 明るい場所。慣らせば直射日光4〜6時間にも耐える |
| 水やり | 板が軽くなったらたっぷり。夏は7〜14日ごと、冬は3〜4週ごと |
| 湿度 | 20〜60%。乾燥に強い |
| 温度 | 日本では冬5℃を下限に。夏の高温にも強い |
| 板付け | コルク板・スギやヒノキの板・ヘゴ板・石 |
| 難易度 | やさしい。ビフルカツムに次いで育てやすい |
光:明るいほど銀色が深くなります。 室内なら南か西の窓際、または育成ライトで1日12〜14時間、PPFD 200〜400が目安です。屋外では、午前中の日光と午後の木漏れ日くらいが理想で、十分に慣らした成株なら6時間以上の日なたにも耐えます。慣らすときは2週間かけて、朝の日光1時間から始め、2〜3日ごとに1時間ずつ増やしてください。冬の間室内にいた株を、いきなり5月の日差しに出すと一日で葉焼けします。もし焼けてしまったら葉焼けと高温障害のガイドを参照してください。
水やり:熱帯系のペースでは多すぎます。 板を持ち上げて、はっきり軽くなってから水をやります。そのときは15分ほどソーキングしてたっぷり吸わせます。ビーチーは「ときどきの大雨」に合わせて進化した植物で、こまめな葉水向きではありません。日本の梅雨から夏は空気が湿っているぶん乾きが遅いので、日数より重さで判断してください。基本はビカクシダの水やり頻度にあります。
寒さ:ビーチーは急いで取り込まなくていい品種です。 根が乾いた成株は0℃前後の短い冷え込みに耐えた例も多く、ビカクシダの中で最も寒さに強い種類です。とはいえ日本の冬は乾いた寒さだけではありません。安全に越冬させるなら5℃を下限に考え、関東以西の平野部で、霜と北風が当たらない軒下に限って屋外越冬を検討してください。それ以外は室内の明るい窓際が安心です。
- 寒波の5〜7日前にたっぷり水をやり、その後は控える。
- 0℃近くまで下がる夜が続くなら、取り外せる板は軒下か室内へ。
- 動かせない株は不織布をかけ(ビニールは避ける)、翌朝外す。
- 10月から3月は肥料をやめる。
品種ごとの越冬温度はビカクシダの冬越しと耐寒温度にまとめています。板付けの手順は板付けのやり方を参照し、金具はステンレスか真鍮を使ってください。
大きさ: ビーチーはいくつもの成長点から子株を出し、やがて板をぐるりと包みます。40cmほどのコルク板に付けた株が、10年後には板の見えない銀色の玉になることも珍しくありません。その姿を目指すなら子株は付けたままに、増やしたいなら子株の外し方を参照してください。ビーチーは胞子から育てるのも比較的やさしい種類です。
ビーチーの銀色が薄れる3つの原因
ほぼすべてのケースが次の3つで説明できます。最初の2つは、どちらも「銀色が薄れる」という同じ症状で現れます。
- 光不足。 リドレイに向くような北向きの窓辺に置いたビーチーは、緑っぽく伸びて成長が止まります。ビフルカツムと間違えられる一番の理由です。
- 水のやりすぎ。 星状毛が寝てしまい、成長点がいつも湿った状態になります。葉が黄色くなってきたら葉が黄色くなる原因も確認してください。
- 濡れたまま冷える。 乾いた寒さには耐えますが、濡れた寒さは致命的です。
この3つさえ外さなければ、ビーチーはほとんど手のかからない植物です。その丈夫さと銀色の美しさ、そして集めたくなる産地名の多さが、ビーチーが本格的なビカクシダ栽培の入り口として選ばれる理由です。
