ビカクシダの耐寒温度は品種で3段階に分かれます。ビフルカツム(ネザーランド)・ビーチーなどオセアニア系は5℃、アルシコルネなどアフリカ系は10℃、リドレイ・グランデ・コロナリウムなど熱帯アジア系は15℃が越冬ラインです。 取り込みは「夜の最低気温がそのラインを切り始める週」に行ってください。

ビカクシダ(コウモリラン)が枯れる相談は、真夏より冬のほうがずっと多いです。しかも冬の枯れ方はたちが悪く、寒さに当たった直後は何ともないように見えて、数日後に葉が黒ずんで水浸しのようになり、気づいたときには成長点まで傷んでいます。ここで大事なのは、ビカクシダは一律に「寒さに弱い植物」ではなく、品種によって耐寒性が10℃も違うということです。ネザーランドを15℃で管理するのは過保護で光を無駄にしますし、リドレイを5℃で越冬させようとすれば確実に枯れます。

この記事では、品種別の耐寒温度、取り込み時期の決め方、冬の水やりと置き場所、そして冬に枯れる本当の原因を順に説明します。

ビカクシダの耐寒温度は品種で3段階

ビカクシダの耐寒性は原産地でほぼ決まります。オーストラリアの乾燥した森から来た種類は寒さと乾燥に強く、東南アジアの熱帯雨林から来た種類は一年中暖かい環境しか知りません。同じ「ビカクシダ」でも、越冬に必要な温度は次の3グループで覚えてください。

グループ品種越冬の目安(最低温度)取り込みの目安
オセアニア系(強い)ビフルカツム・ネザーランド・ビーチー(ベイチー)ヒリーウィリンキースパーバム5℃夜間最低気温10℃
アフリカ・マダガスカル系(中間)アルシコルネエレファントティスステマリアマダガスカリエンセエリシー10℃夜間最低気温15℃
熱帯アジア・南米系(弱い)リドレイグランデコロナリウムホルタミーワリチーワンダエアンディナム15℃夜間最低気温18℃

表の温度は「これを下回ると傷み始める」ラインであって、「これなら元気に育つ」温度ではありません。どのグループも10℃を下回ると成長はほぼ止まります。 生育に向くのは18〜27℃で、冬の室内でもこの範囲に近いほど春の立ち上がりが早くなります。

グループ内でも差はあります。ビーチーは白い星状毛が断熱材の役目を果たすため、オセアニア系でも最も寒さに強く、屋外の霜さえ避ければ3℃程度でも耐えたという報告が珍しくありません。逆にウィリンキーとスパーバムは同じオセアニア系でも一段デリケートで、5℃はあくまで下限、できれば8℃以上を保ってください。この「毛が厚いほど強い」という傾向は、寒さだけでなく光と乾燥への強さとも一致しています。品種ごとの性質の違いはビカクシダの置き場所と日照でも触れています。

[!IMPORTANT] 耐寒温度は株の体力で大きく変わります。買ったばかりの株、夏に弱った株、板付けや株分けをした直後の株は、表の温度より3〜5℃高めに見積もってください。表の数字が通用するのは、秋までにしっかり根を張って貯水葉を出した健康な株だけです。

ビカクシダの冬の取り込みはいつ?最低気温で決める

取り込みの時期を「10月になったら」のようにカレンダーで決めるのはやめてください。同じ10月でも、地域と年で最低気温は5℃以上ずれます。見るべき数字は一つ、週間予報の夜間最低気温です。

  • 熱帯アジア系(リドレイ・グランデなど):最低気温が**18℃**を切る予報が出た週に取り込む
  • アフリカ系(アルシコルネなど):**15℃**を切る週
  • オセアニア系(ビフルカツム・ビーチーなど):**10℃**を切る週

目安として、気象庁の平年値を見ると東京の日最低気温は10月中旬に15℃を下回り、11月中旬に10℃を下回ります。大阪・名古屋はこれとほぼ同じか数日遅れ、仙台は2〜3週間早く、札幌はさらに1か月早く、福岡は1〜2週間遅れます。ただしこれは市街地の平年値で、郊外の一戸建てや川沿いのベランダは同じ日で2〜3℃低いのが普通です。実際の判断は必ず自分の地域の予報で行ってください。

取り込みが早すぎて困ることはほとんどありません。秋の屋外の光は貴重ですが、1週間早く室内に入れた損失は、霜に1晩当たった損失とは比べ物になりません。迷ったら早めに取り込む、これが冬越しの最初のルールです。

取り込み前に必ず、葉の裏と貯水葉の隙間を確認してください。屋外で付いたカイガラムシハダニを室内に持ち込むと、天敵のいない暖かい部屋で冬の間に爆発的に増えます。株ごと水に20分浸けて虫を追い出し、乾かしてから室内に入れるのが確実です。

ビカクシダは冬に屋外で越冬できる?

できる場合とできない場合がはっきり分かれます。

できる可能性があるのは、次の3つが全部そろったときだけです。

  1. 品種がビフルカツム・ネザーランド・ビーチーのいずれか(ヒリー・ウィリンキー・スパーバムは避ける)
  2. 関東以西の温暖な平野部で、最低気温が0℃を切る夜が年に数回しかない
  3. 軒下・ベランダの壁際など、霜と北風が直接当たらない場所に掛けられる

ビカクシダを冬に殺すのは低温そのものより、です。霜は葉の表面で水が凍る現象で、葉の細胞を直接壊します。気温が2〜3℃でも、屋根のない場所に掛けた株は放射冷却で葉の温度が0℃を下回り、霜が降ります。軒下という条件が効くのはこのためで、上に屋根があるだけで葉の温度は外気とほぼ同じに保たれます。

それでも0℃を切る予報の夜は、不織布をかけるか室内に入れてください。一晩の霜で成長点が死ぬと、その株は二度と新しい葉を出しません。

正直に言えば、屋外で越冬させた株は、室内で15℃以上を保った株に比べて春の立ち上がりが1か月以上遅れ、貯水葉の縁が茶色く傷むことが多いです。屋外越冬は「できるかどうか」より「する価値があるか」で考えて、大切な株ほど室内に入れることをおすすめします。屋外で傷んだ貯水葉の見分け方は貯水葉が茶色くなる原因にまとめています。

冬の水やりと葉水:回数を減らし、午前中に

冬に枯れるビカクシダの大半は、寒さではなく寒さの中で濡れていたことが原因です。10℃以下で成長が止まった株は水をほとんど吸いません。夏と同じペースで水をやれば、水苔は何日も湿ったままになり、冷えた根から腐り始めます。

冬の水やりの原則は3つです。

  • 回数を減らす。 板付けも鉢植えも12〜14日に1回が目安で、水苔が完全に乾いて2〜3日たってから与えます。夏の「7日に1回」を冬まで続けるのが最も多い失敗です。季節ごとの基準はビカクシダの水やり頻度にあります。
  • 午前中に、常温の水で。 夕方や夜に水をやると、株は冷えた状態で夜を迎えます。暖かい日の午前中に与え、日中のうちに表面を乾かしてください。冷たい水道水は室内に汲み置いて常温に戻してから使います。
  • 1回はたっぷり、腰水で。 回数を減らす代わりに、1回の水やりでは水苔の芯まで吸わせます。表面だけ湿らせる「ちょい足し」を繰り返すと、根の周りだけ乾いて表面だけ湿る最悪の状態になります。

葉水については、冬の室内は暖房で湿度が30〜40%まで下がるので、朝のうちに胞子葉に軽く霧を吹くのは有効です。ただし夜の葉水は避けてください。濡れた葉が夜間の窓際で冷えると、低温障害を招きます。葉水は水やりの代わりにはならず、あくまで乾燥対策です。

冬の室内の置き場所:窓際の夜間冷えと暖房の風

室内なら安心、とは限りません。冬の室内には2つの落とし穴があります。

1つ目は窓際の夜間温度です。 日中は最も明るくて暖かい南向きの窓際が、夜には家の中で最も冷える場所になります。一般的な一枚ガラスの窓のそばは、夜間の最低気温が外気より2〜3℃高い程度で、暖房を切った真冬の明け方には5℃前後まで下がることが珍しくありません。オセアニア系ならぎりぎり耐えますが、リドレイやグランデには致命的です。対策は簡単で、夜だけ窓から1mほど離すか、厚手のカーテンの室内側に株が来るようにするだけです。窓とカーテンの間に置いたままにするのが最悪のパターンです。

2つ目は暖房の風です。 エアコンの温風が直接当たる場所は、温度は高くても湿度が20%台まで落ち、胞子葉の先から乾いて茶色くなります。石油ストーブやファンヒーターの前も同じです。暖房の風が当たらず、それでいて明るい場所を選んでください。

光については、冬は太陽が低く日照時間も短いので、夏に半日陰で育てていた株も冬はできるだけ明るい窓際に移して構いません。冬の南窓の直射で葉焼けすることはまずありません。北向きの部屋しかない場合は、育成ライトを1日10〜12時間当てるのが最も確実で、詳しくはビカクシダの置き場所と日照を参照してください。

寒さの症状は遅れて出ます。取り込みが遅れた株、あるいは窓際で一晩冷えた株は、2〜4日後に葉が部分的に黒ずみ、水に濡れたように透けて見え、やがて柔らかく崩れます。この症状が成長点の周りに出た場合は根腐れと同じ処置が必要で、葉全体が黄色く色あせるだけなら葉が黄色くなる原因で低温以外の要因も確認してください。

ビカクシダが冬に枯れる3つの原因

寒さの中で株を弱らせるのは、たいてい人の手です。冬に枯らす原因は3つに集約されます。

原因何が起きるか対策
水のやりすぎ成長が止まった株の水苔が乾かず、冷えた根が腐る12〜14日に1回、完全に乾いてから午前中に
冬の施肥吸えない肥料が水苔に溜まり、根と葉先を傷める10月〜3月は施肥をやめる
冬の株分け・板付け回復できない時期にダメージを受け、胞子葉がしおれる作業は最低気温18℃を超える4〜6月まで待つ

肥料は特に見落とされがちです。夏に液肥を続けていた習慣を冬までそのまま続けると、株が吸収できない養分が水苔に塩類として蓄積し、春になって葉先が茶色く枯れ込む形で現れます。10月に入ったら施肥は止め、春の新芽を確認してから再開してください。時期ごとの施肥量はビカクシダの肥料で説明しています。

株分けと板付けも同じです。秋に子株を見つけると外したくなりますが、冬の間に根を張れなかった子株は春を待たずに萎れます。子株の外し時はビカクシダの増やし方にある通り、暖かくなってからで十分間に合います。

春に屋外へ戻す目安

冬越しの最後の関門は、春の戻し方です。取り込みと逆で、夜間の最低気温が取り込み時の目安を安定して上回るようになったら屋外に戻せます。オセアニア系なら最低気温10℃、熱帯アジア系なら18℃が続く週で、東京ならそれぞれ4月中旬と5月下旬が目安です。

ただし、冬の間ずっと室内の弱い光で過ごした株を、いきなり春の屋外の直射に出すと葉焼けします。最初の1〜2週間は明るい日陰に置き、そこから徐々に光を強くしてください。春の遅霜にも注意が必要で、4月に入っても寒の戻りで最低気温が5℃を切る夜は珍しくありません。戻したあとも1週間は予報を見続けるのが安全です。

冬を無事に越したビカクシダは、春に一気に動き出します。11月から3月までの4か月を「何もしない、水を減らす、光だけ確保する」で通せれば、冬越しは成功です。