ビカクシダ・リドレイ(Platycerium ridleyi)は、ドワーフシルバー・パカラン・モンキーキングなど名前の付いたタイプも含めてすべて同じ種で、育て方も同じです。守るべき条件は3つ、24時間の弱い風、湿度60〜80%、そして18℃を切らない温度です。

リドレイは「ビカクシダ(コウモリラン)で一番枯らしやすい種類」として知られています。上に伸びる鹿の角のような胞子葉と、キャベツのように重なる貯水葉は他の品種にない姿で、園芸店やネット通販で見かけると欲しくなりますが、買ってから半年以内に成長点を腐らせてしまう人が少なくありません。この記事では、まず手元の株がどのタイプかを見分け、そのあとでリドレイが本当に必要としている環境を順に説明します。

リドレイの名前は、シンガポール植物園の初代園長ヘンリー・リドレーにちなみます。海外の販売名では ridleyi のほか ridleyii、ridley と綴られることもありますが、すべて同じ植物です。

リドレイの品種:どのタイプか見分ける

まず胞子葉(上に伸びる角のような葉)の形を見て、次に貯水葉の大きさを確認します。銀色の濃さは光の量で変わるので、決め手ではなく補助の手がかりにしてください。

タイプ胞子葉貯水葉の大きさ特徴流通量・価格帯の目安
スタンダード太めの分岐が少なく、硬く直立40〜50cm野生型の基準比較的入手しやすい
ドワーフシルバー(シルバードワーフ)形はスタンダードと同じで短い25cm前後星状毛が厚く銀白色。タイ南部の選抜株高め
ドワーフ・コンパクト系短く詰まる25cm未満最も小型で成長が遅い高め
パカラン細かく何本にも分かれ、サンゴのよう標準タイ語で「サンゴ」。最も人気の高いリドレイ非常に高い
コーラルパカランに似た多分岐標準パカランの英語表記として使われることもある高め
モンキーキング標準的幅広く凹凸が強い生育旺盛で人気上昇中高め
ワイドフォーム幅広く平たい分岐標準ヨーロッパのナーセリーが扱う中程度
スレンダー・ナローフォーム細長い分岐標準呼び名が曖昧に使われる中程度

貯水葉が小さい=サイズの選抜(ドワーフ系)。胞子葉の形が変わっている=葉形の選抜(パカラン・コーラル・ワイド・スレンダー)。貯水葉が幅広く凹凸が強い=モンキーキング。 どれにも当てはまらないのに特別な名前が付いている場合、その名前だけでは何の証明にもなりません。

ドワーフシルバーと普通のリドレイの違い

リドレイの中で最もよく検索されるのがドワーフ系です。違いは大きさにほぼ集約されます。

スタンダードドワーフシルバー
貯水葉直径40〜50cm直径25cm前後
銀色中程度厚く、銀白色に見える
胞子葉長く直立同じ形で短い
向いている場所壁掛け・温室温室・ワーディアンケース・狭い室内
育て方同じ同じ

ドワーフに高いお金を払う前に知っておきたいことが2つあります。一つは、小型は遺伝的な性質で、育て方では作れないことです。スタンダードを小さなケースで育てても小型にはならず、ただ調子を崩すだけです。もう一つは、ドワーフシルバー・シルバードワーフ・ドワーフシルバリーは同じタイ南部の選抜株の別表記だということです。名前が違うからといって別の株とは限りません。

若い株のうちはスタンダードとドワーフシルバーの見分けはかなり難しく、貯水葉が成熟して初めて差がはっきりします。品種名で価格が上乗せされている場合は、同じクローンの親株の写真を見せてもらえる店から買うのが安全です。

本当にリドレイ?似た品種との見分け方

品種名の前に、そもそもリドレイかどうかを確認しましょう。リドレイは胞子葉が角のように上へ伸びる点で、ほかの多くのビカクシダとはっきり違います。

リドレイコロナリウムウィリンキービーチー
胞子葉硬く直立、角のよう長く垂れ下がる細く垂れ下がり、銀色直立、硬く銀色
胞子のう最初の分岐にスプーン状別の裂片に付く葉先葉先
貯水葉深い筋があり、キャベツ状に重なる背の高い王冠状背が高く筋がある丸く先が尖る
子株出さない(単頭性)出す出す出す
寒さ弱い(18℃以上)弱い中程度強い

胞子葉が立ち、貯水葉がキャベツのように重なっていればリドレイです。直立して銀色、しかも子株が出ているならビーチー、胞子葉が垂れ下がるならウィリンキーかコロナリウムです。分布や亜種、アリと共生する貯水葉のしくみはリドレイの品種ページにまとめています。

リドレイの育て方の基本

タイプによる育て方の違いはありません。リドレイが「上級者向け」と言われる理由はほぼ一つで、風のない場所で湿気がこもることです。初めて育てる人が一番気にする水やりの頻度より、風のほうがはるかに重要です。

項目目安
風最重要。サーキュレーターで24時間弱い風
光明るい日陰。直射日光は避ける
水やり水苔の表面が乾き始めたら。カラカラにはしない
湿度60〜80%
温度生育適温24〜32℃、冬も18℃以上
板付け縦向き、成長点を真上(12時の位置)に
肥料緩効性肥料を貯水葉の裏に少量
増やし方胞子のみ(子株を出さない)
難易度上級

水やりより大事なのは風

この記事で一つだけ覚えてほしいことがあるとすれば、リドレイには水やりの頻度より風のほうが大事だということです。

ほかのビカクシダは、多少空気がよどんでいてもそれなりに育ちます。リドレイは違います。何枚も重なった貯水葉のすき間に水分が溜まり、風がないとそこからカビや細菌が増えて、気づかないうちに成長点を腐らせます。

  • 室内では、サーキュレーターを首振りの弱運転で24時間回し、株の周りの空気がいつも少し動いている状態にします。風を直接一点に当て続ける必要はありません。葉がかすかに揺れる程度で十分です。
  • 温室やワーディアンケースでは、PCファンなどの小型ファンを付けて空気を循環させます。湿度だけ上げて風がない密閉ケースは、リドレイにとって最も危険な環境です。
  • 壁掛けでは、部屋の角や家具の陰など、空気が動かない場所を避けます。

高湿度と無風の組み合わせは腐敗を招き、高湿度と風の組み合わせはリドレイを元気にします。調子を崩したリドレイを「もっと湿度の高い場所へ」と移して悪化させるのは、湿度だけ上げて風を増やさなかったからです。

日本の夏はここが特に問題になります。梅雨から9月までの高温多湿の時期は、屋外でも風が止まると一気に蒸れます。ベランダで育てる場合も、室内で育てる場合も、この時期こそサーキュレーターを止めないでください。

成長点を腐らせない水やり

リドレイが枯れる原因の多くは水やりから始まります。この種は少し扱いにくい中間の性質を持っていて、常に適度な湿り気は欲しいのに、水が溜まった状態には短時間でも耐えられません。

  1. 水苔の表面が乾き始めたら水をやります。 カラカラに乾くまで待つのでも、まだ湿っているうちに足すのでもありません。持ち上げて「少し軽くなった」と感じるタイミングです。
  2. ソーキング(ドブ漬け)は短めに、5〜10分。 そのあとはしっかり水を切り、数分で滴らなくなる状態にします。
  3. 板付けは縦向き、成長点を真上に。 重力で水が成長点から離れていくようにします。
  4. 貯水葉には葉水をしない。 重なった葉のすき間に水が残り、腐敗の原因になります。

目安として、夏の生育期は3〜5日ごと、冬は7〜10日ごとですが、風が弱い環境ほど間隔を空けてください。乾燥に比較的強いウィリンキーやビフルカツムと違い、リドレイは水苔が完全に乾ききるのも苦手です。属全体に共通する考え方はビカクシダの水やり頻度、失敗したときの症状は根腐れのガイドを参照してください。

水やりの間隔は、株ごとに「前回いつやったか」を記録しておくと、季節ごとの自分の環境のペースが見えてきます。ビカクログなら株ごとのお世話記録に水やりの日が残るので、リドレイのように加減が難しい株の管理に向いています。

光・温度・湿度

リドレイはマレー半島・スマトラ・ボルネオの低地熱帯雨林で、高い木の上に着生して育ちます。光・温度・湿度の好みはすべてこの生まれから説明できます。

光は「明るい日陰」。多くのビカクシダより明るさを好みますが、直射日光は避けます。 室内なら東向きの窓際、南向きならレースカーテン越しの場所が向いています。育成ライトを使う場合は1日12時間、PPFD 200〜400程度が目安で、設置の考え方は置き場所と日照のガイドにあります。光が足りないと貯水葉が締まらず、外側へだらしなく広がってキャベツ状になりません。逆に直射に当てると、特に色の淡い新葉が葉焼けします。

温度は妥協できない条件です。 リドレイは低地熱帯の植物で、寒さへの耐性はほとんどありません。

温度株の状態
24〜32℃理想。よく育つ
18〜24℃成長はゆっくりだが健康
18℃未満成長が止まり、ストレスがかかり始める
15℃未満低温障害。回復しないことが多い

日本で問題になるのは冬の夜です。夜間の最低気温が18℃を切り始める10月中旬から下旬には室内に取り込みます。室内でも、暖房を切った夜の窓際は外気と大差ないほど冷えるので、夜は窓から離すか、温室やワーディアンケースにパネルヒーターとサーモスタットを組み合わせて温度を保つのが確実です。ビーチーのように5℃前後まで耐える品種とは正反対だと考えてください。品種ごとの越冬温度はビカクシダの冬越しと耐寒温度にまとめています。

湿度は60〜80%を安定して。 一時的に50%まで下がる程度なら問題ありませんが、乾いた空気が続くと葉先が茶色くなり、貯水葉の育ちも悪くなります。日本の冬の暖房の効いた部屋は湿度30%台まで下がることも珍しくないので、加湿器をサーキュレーターと組み合わせるか、ファン付きの温室で育てるのが現実的です。本気でリドレイを育てる人の多くが最終的に温室栽培に行き着くのは、湿度と風を同時に管理できるからです。葉先が茶色くなったときは葉先が茶色くなる原因も確認してください。

板付け:成長点から水が流れ落ちる向きに

リドレイも通常の板付けで育てられますが、向きがすべてです。成長点を板の一番上(12時の位置)にすることで、水は下へ流れて成長点から離れ、貯水葉は重力に沿って自然に重なり、貯水葉の間の空洞に水が溜まりません。

素材長所短所
コルク板水はけがよく自然な見た目大判は高価
ヘゴ板適度に水を保ち、根がよく張る年数とともに傷む
スギやヒノキの板丈夫で腐りにくい重い
ワイヤーバスケット全方向に風が通る見た目の迫力は控えめ

水苔は薄く、1〜2cmで十分です。 水苔が少ないほど早く乾き、腐敗のリスクが下がります。板付けの手順はビカクシダの板付けのやり方を参照してください。

野生のリドレイは、重なった貯水葉の中の空洞にアリを住まわせています。アリが運び込む落ち葉や虫の死骸が分解され、それがシダの養分になります。この仕組みをまねて、マグァンプKのような緩効性肥料を少量、貯水葉の裏に入れると、自然に近い場所から養分を届けられます。量は控えめにし、春から秋の生育期に限ります。肥料の選び方と量はビカクシダの肥料にあります。

調子が悪いときの対処

成長点の腐敗が最大の問題です。成長点が柔らかく黒っぽくなり、酸っぱいにおいがすることもあります。向きの悪い板付け、水のやりすぎ、無風のどれか(多くは複数)が原因です。早期なら水やりを止め、サーキュレーターの風を当てて板を十分に乾かします。成長点が完全に崩れていたら、子株を出さないリドレイはまず助かりません。縦向きの板付けと絶え間ない風による予防が、唯一の確実な対策です。

葉先が茶色いときは、湿度50%未満か水やりのムラが原因です。湿度を上げ、水やりのリズムを安定させてください。

カイガラムシはリドレイで最も多い害虫で、スプレーが届かない貯水葉の裏に隠れます。水やりのたびに貯水葉の裏を確認してください。駆除方法はカイガラムシ駆除ガイドと害虫のガイドにあります。

貯水葉が締まらず広がるのは光不足です。キャベツ状の姿には明るさが必要です。置き場所を変えるか育成ライトを足してください。すでに出た葉は締まりませんが、次の葉から変わります。

子株を出さないので、増やすのは胞子だけ

リドレイは単頭性で、ウィリンキーやビフルカツムのように子株を出しません。株分けはできず、増やす方法は胞子からの実生だけです。増えるのに時間がかかることが、リドレイが高価な理由の一つでもあります。挑戦するなら胞子からの育て方を参照してください。

リドレイに挑戦する価値はある?

あります。ただし、心構えは必要です。リドレイは棚に置いて放っておける植物ではなく、風・湿り気・温度に気を配ることを求めてきます。その代わり、博物館の標本のような、ほかの観葉植物にはない姿を見せてくれます。

ビカクシダが初めてなら、まずネザーランドで板付け・重さで判断する水やり・貯水葉の見方を身につけてから挑戦するのがおすすめです。最初の一株として選ぶなら、小さなコルク板に付けたドワーフシルバーが、リドレイの中では最も扱いやすい入り口です。