ビカクシダ・ネザーランドは、ビフルカツム(Platycerium bifurcatum)の小型の選抜品種です。育て方は原種のビフルカツムと同じで、違うのは大きさと成長の速さだけ。 買ってから最初の1年で枯れる原因のほとんどは、買ったときの鉢と土のまま、毎週水をやり続けることです。
ネザーランドは、日本でビカクシダ(コウモリラン)を初めて買う人がいちばん手にしやすい品種です。ホームセンターや園芸店、インテリアショップ、ネット通販で、小さな鉢植えや苔玉、板付けの状態で手頃な価格で売られています。ところが名札には「ビカクシダ・ネザーランド」としか書かれておらず、調べても「ビカクシダの育て方」しか出てこない、ということがよくあります。この記事では、ネザーランドが何者なのか、原種とどう違うのか、どこまで大きくなるのか、そして最初の1年を乗り切る管理を順に説明します。
ネザーランドとはどんな植物?
ビフルカツムの原産地はオーストラリア東部の沿岸の丘陵地で、植物そのものにオランダの要素はありません。「ネザーランド(オランダ)」なのは生産の流れのほうです。オランダはヨーロッパの観賞植物生産の中心地で、オランダの生産者はビカクシダを組織培養で大量に増やし、世界中に出荷してきました。
その長い生産の中で、小さな鉢で売れやすい性質、つまり詰まった分岐、まとまった姿、ゆっくりした成長、棚に置いて完成して見える株が選ばれてきました。その選抜株が ‘Netherlands’(ネザーランド) という品種名で流通しています。英語圏では「ダッチ・スタッグホーン・ファーン(オランダのビカクシダ)」とも呼ばれます。
名札の表記を読み解くと、こうなります。
| 名札の表記 | 実際の意味 |
|---|---|
| ビカクシダ・ネザーランド | ビフルカツムの選抜品種 ‘Netherlands’ |
| Platycerium bifurcatum ‘Netherlands’ | 同じ。学名と品種名の正式な書き方 |
| ビカクシダ(コウモリラン) | 品種名なしで売られているが、小ぶりならネザーランドのことが多い |
| オランダ産 | 生産地であって、原産地ではない |
どれも希少な株や高級な株を意味するものではありません。初めて育てる人にとってはむしろ朗報で、ビカクシダの中で最も丈夫で育てやすい種類を手に入れたということです。種としての特徴はビフルカツムの品種ページにまとめています。
日本の園芸店では「ネザーランド」と原種の「ビフルカツム」が別の商品として並んでいることがありますが、どちらも同じ種です。名札だけで区別できない株も多く、迷ったら下の比較表の大きさと葉の形で判断してください。
ネザーランドとビフルカツム(原種)の違い
いちばんよくある質問です。正直に言うと、違いは見た目と大きさで、育て方ではありません。
| ネザーランド | 原種のビフルカツム | |
|---|---|---|
| 種 | ビフルカツム | ビフルカツム |
| 室内での成株の幅 | 30〜45cm | 60〜90cm以上 |
| 成長の速さ | ゆっくり | 中程度から速い |
| 葉の形 | 短く、分岐が詰まる | 長く、ゆるく、垂れ気味 |
| 売られている大きさ | 小さな鉢や苔玉 | 大きめの鉢や板付け |
| 子株 | ゆっくりだが出す | よく出す |
| 育て方 | 同じ | 同じ |
| 向いている場所 | 棚・小さな板付け・最初の一株 | 大きな壁掛け・屋外 |
数年で壁を埋めるような株がほしいなら原種のビフルカツム、本棚や洗面所でバランスよく収まる株がほしいならネザーランドのほうが向いています。小さくまとまることこそ、この品種の価値です。
ネザーランドはどのくらい大きくなる?
室内では、3〜5年かけて幅30〜45cmほどが目安です。胞子葉(角のような葉)1枚は20〜35cmほど、貯水葉(株元の丸い葉で、年を取ると茶色く紙のようになる)は直径15〜25cmほどの円盤状になります。
この上限を変えるのは2つです。
- 光。 暗い場所では、買ったときの大きさのまま何年も止まります。明るい日陰なら、ゆっくりでも着実に育ちます。
- 群生。 ビフルカツムは子株を出す種類です。大きめの板に付けて子株を残しておけば、ネザーランドも少しずつ群生株になり、1株よりずっと大きく見えるようになります。
群生させるより株を増やしたいなら、子株の外し方を参照してください。成熟した株は胞子をつけることもありますが、胞子から育てた株は親と同じ姿になるとは限りません。時間をかけて楽しむならビカクシダの胞子培養という方法もあります。
ネザーランドの育て方の基本
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 光 | 明るい日陰。東向きの窓際が理想 |
| 水やり | 7〜14日ごとにソーキング。日数より重さで判断 |
| 湿度 | 40%以上(50〜60%ならなお良い) |
| 温度 | 16〜27℃が快適。根付いた株は5℃まで、買ったばかりの株は10℃以上 |
| 用土 | 水苔か、バーク主体の着生植物用ミックス。普通の培養土は避ける |
| 肥料 | 春から初秋に薄めた液肥を月1回 |
| 難易度 | やさしい。初心者に最も向くビカクシダ |
光:東向きの窓際がいちばん
室内なら、東向きの窓際が最適です。午前中のやわらかい日が数時間当たり、強すぎる光はありません。南や西の窓なら、窓から少し離すかレースカーテン越しに。明るい洗面所もよい場所です。
うまくいかないのは、部屋の暗い隅や、唯一の窓から離れた棚の上です。光が足りないネザーランドは劇的に枯れるわけではなく、ただ止まります。買ったときの葉を1年間保ったまま、少しずつ色が薄れていきます。もともと成長が遅い品種なので、光不足を「こういうものだ」と見過ごしがちです。半年間新しい葉が出ていないなら、まず置き場所を見直してください。方角ごとの置き場所は置き場所と日照のガイドにあります。
水やりと「買ったときの鉢」の落とし穴
ネザーランドが枯れる一番の原因は、植物そのものとは関係ありません。
店頭のネザーランドの多くは、小さなプラ鉢に、ピートモスの多い生産用の土や、ぎゅっと詰めた水苔で植えられています。これは風通しと水やりが管理された生産温室向けで、一般の部屋では着生植物の根が耐えられないほど長く水を抱えます。そこに毎週水をやると土が乾くことがなく、葉はきれいなまま、株元の中から腐っていきます。
対処法は、おすすめ順に次の3つです。
- 板付けにする。 コルク板やヘゴ板、スギ板に、長繊維の水苔で付けます。ビカクシダ本来の育ち方です。手順は板付けのやり方を参照してください。
- 着生植物用の用土に植え替える。 洋ラン用のバーク・パーライト・水苔をおおよそ同量ずつ混ぜ、底穴のしっかりした鉢に植えます。鉢植えのまま育てる場合の考え方はビカクシダの鉢植えにあります。
- 鉢はそのままで、水やりの方法を変える。 間隔を空け、上からかけるのではなくソーキングし、受け皿に水を溜めっぱなしにしないこと。
どれを選んでも、重さで判断してください。株を持ち上げて、意外なほど軽く、水苔が表面から2〜3cm乾いていたら水やりのタイミングです。目安は7〜14日ごと、冬はもっと空きます。10〜20分ソーキング(ドブ漬け)したら、しっかり水を切ります。日本の梅雨どきは乾きが遅いので、カレンダーどおりに水をやると過湿になりやすい時期です。
貯水葉が茶色く紙のようになるのではなく、柔らかく黒ずんできたら、すぐに根腐れのガイドを読んでください。進行の速い症状です。水やりのリズム全体はビカクシダの水やり頻度にあります。
板付けはいつする?
いずれはおすすめですが、急ぐ必要はありません。鉢植えでも元気な株は危険な状態ではありません。
- 板付けするとよい場合: 壁掛けのビカクシダらしい姿にしたい、成長点まわりの風通しをよくしたい、10年育てられる土台がほしい。
- 待ったほうがよい場合: 買ったばかり、株がまだ小さい、配送で届いたばかり。4〜8週間は落ち着かせてから根を触ります。作業は暖かい5〜6月がいちばん安全です。
- 板は大きめに。 今の株より20〜25cmほど大きい板を選びます。群生してから付け替えるのは、最初に余裕を持って付けるよりずっと大変です。
ネザーランドは小さくまとまるので、小さめのコルク板か、25×30cmほどのスギ板で何年も十分です。
湿度・温度・肥料
湿度: 40%以上あれば耐えるので、多くの家で問題ありません。例外は暖房の効いた冬の部屋です。葉先が茶色くパリパリしてきたら乾燥のサインなので、ほかの植物とまとめて置くか加湿器を使ってください。霧吹きはすぐ蒸発してしまい、あまり効果がありません。
温度: 普通の室温、16〜27℃で快適に育ちます。ビカクシダの中では寒さに強く、根付いた株なら5℃前後まで耐え、関東以西の平野部なら霜と北風の当たらない軒下で冬を越せることもあります。ただし、買ったばかりの小さな株には体力がありません。最初の冬は10℃以上の室内で、エアコンの風と冷たい窓ガラスの両方から離して管理してください。品種ごとの温度の目安はビカクシダの冬越しと耐寒温度にあります。
肥料: 春から初秋に、ハイポネックス原液などの液肥を観葉植物向けよりさらに薄めて、月1回水苔に与えます。冬はやめます。もともと成長の遅い品種なので、肥料を増やしても速くは育ちません。与えすぎると根が傷み、水苔に白い塩類が溜まります。詳しくはビカクシダの肥料を参照してください。
猫や犬がいても大丈夫?
大丈夫です。米国の動物虐待防止協会(ASPCA)の資料では、ビフルカツムは猫・犬・馬に無毒とされており、ネザーランドも同じ種です。
ただし、無毒と「食べても平気」は別です。猫が葉をかじると、繊維で軽く吐くことがありますし、水苔に残った肥料も口に入れないほうが安心です。壁に掛ければどちらの心配もなくなり、それは植物にとってもいちばん良い置き方です。
買ってから最初の1か月によくある症状
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 株元の丸い葉が茶色く紙のようになる | 正常。貯水葉は本来こうなる | そのままに。はがさない |
| 株元が柔らかく黒ずむ | 生産用の土のまま水のやりすぎ | 水やりを止め、植え替えか板付け。腐敗を確認 |
| 葉先が茶色くパリパリ | 湿度不足か水切れ | 湿度を上げ、ちょい足しでなくしっかりソーキング |
| 買った直後に全体がぐったり | 輸送のストレスか、配送中の乾燥 | 一度しっかり水をやり、明るい日陰で静かに |
| 何か月も新しい葉が出ない | 光不足 | 東向きの窓際へ |
| 葉の色が白っぽく抜ける | 真昼の直射日光 | レースカーテン越しにするか窓から離す |
詳しくは葉先が茶色くなる原因、貯水葉が茶色くなる原因、葉が黄色くなる原因を参照してください。
最初の一株から、コレクションへ
ネザーランドは、華やかさはなくても、ビカクシダという奥の深い世界への入り口です。本格的にビカクシダを集めている人のほとんどが、手頃なビフルカツムから始めています。
ネザーランドを1年枯らさずに育て、重さで水やりを判断できるようになり、一度板付けを経験すれば、それは属のどの種類にも通じる技術になります。銀色の葉が美しいビーチーやウィリンキー、そしていつかはリドレイへ。最初の水やりの日を記録しておくと、自分の部屋でのペースがつかみやすくなります。ビカクログでは株ごとのお世話記録に水やりの日を残せます。
