ビカクシダ・スパーバム(Platycerium superbum)は、明るい日陰、5〜10日ごとのソーキング、そして壁に2mの余白が必要な大型種です。 子株は出しません。成長点を1つしか持たない単頭性なので、買った株がそのまま一生の株になります。胞子葉の裂片ごとに胞子のうが1つなのがスパーバムで、2つあればグランデです。
この4つの事実で、スパーバムの失敗のほとんどは防げます。ここから先は、その中身と、よく取り違えられるグランデとの見分け方を詳しく説明します。分布や生育の特徴はスパーバムの品種ページを参照してください。
スパーバムの育て方の基本
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 光 | 明るい日陰。朝日なら当ててもよい |
| 水やり | 10〜15分ソーキングし、乾くまで待つ。5〜10日ごとが目安 |
| 湿度 | 50〜70%が理想。40%程度でも耐える |
| 温度 | 15℃以上でよく育つ。冬は8〜10℃以上が安心、霜は不可 |
| 板付け | 60cm以上の板かバスケット。2mの広がりを見越す |
| 肥料 | 薄めた液肥を月1回、または緩効性肥料を4〜6か月ごと |
| 株分け | できない(単頭性) |
| 成株の大きさ | 貯水葉約1m、胞子葉は最大2m |
| 難易度 | 中級 |
スパーバムとはどんなビカクシダ?
スパーバムは、約18種あるビカクシダ(コウモリラン)の一つで、オーストラリア東部のクイーンズランド州からニューサウスウェールズ州にかけての森に自生します。多くのビカクシダは胞子葉が細い角のように分かれますが、スパーバムの胞子葉は幅が広く、厚みがあり、ゆるやかに裂けます。鹿の角というより、手のひらのように広がるヘラジカの角に近い形で、英語圏では「ムースホーン(ヘラジカの角)」とも呼ばれます。1〜2mに広がった姿は、壁に掛けた緑の巨大なトロフィーのようです。
手元の株を確かめるなら、成熟した胞子葉を裏返してください。スパーバムは、各裂片の切れ込みのところに大きな茶色い胞子のうが1つずつ付きます。
光と水やり
スパーバムは、オーストラリアの森で木漏れ日の差す幹に着生して育ちます。室内なら東向きの窓際で朝日が当たる場所、南や西の窓ならレースカーテン越しが向いています。午後の強い直射は葉焼けの原因です。葉が白っぽく色あせたら光が強すぎ、ひょろりと伸びて貯水葉の育ちが悪いなら光が足りません。
光の好みはリドレイよりずっと寛容で、モンステラが育つくらいの明るさがあればスパーバムも育ちます。
スパーバムが枯れる原因の大半は水やりで、それもほとんどは「足りない」ではなく「多すぎる」ほうです。着生植物は、雨でずぶ濡れになり、そのあと風で乾く、というサイクルに合わせて進化しています。そのリズムをまねてください。
- 根鉢をしっかり濡らす。 板付けなら10〜15分ソーキング(ドブ漬け)するか、水苔からきれいな水が流れ出るまでシャワーでたっぷりかけます。
- しっかり水を切る。 水苔は水を含んでいても、ぽたぽた垂れない状態にします。
- 水苔の表面が乾いてから次の水やり。 室内ならだいたい5〜10日で、夏や空気が乾いている時期は早まります。
- カラカラにはしない。 多少の乾燥には耐えますが、乾いた状態が続くと成長が止まります。
いちばん確実なのは重さで判断する方法です。水やりの前後に株を持ち上げて重さの差を覚えておけば、軽ければ水が必要、重ければまだ不要とわかります。大株になると持ち上げるのは大変なので、若いうちに感覚をつかんでおきましょう。詳しくはビカクシダの水やり頻度を参照してください。
温度と湿度:日本での冬越し
スパーバムの自生地は、気温が10℃を下回ることの少ない、オーストラリア東部の熱帯から亜熱帯の森です。
| 温度 | 株の状態 |
|---|---|
| 18〜30℃ | 理想。よく育つ |
| 15〜18℃ | 成長はゆっくりだが傷まない |
| 10〜15℃ | 成長が止まり、ストレスがかかり始める |
| 5〜10℃ | 短時間なら耐えるが、長く続くと傷む |
| 霜 | 致命的 |
コロナリウムやリドレイのような熱帯系よりは寒さに強く、ビーチーやビフルカツムほどは強くない、という位置づけです。日本では屋外での越冬は勧めません。夏の間ベランダで育てた株は、夜間の最低気温が10℃を切る前、関東の平野部ならおおむね11月上旬までに室内へ取り込みます。取り込む前には、貯水葉の重なりに害虫が隠れていないか確認してください。冬は8〜10℃以上を保つと、春の立ち上がりがよくなります。詳しくはビカクシダの冬越しと耐寒温度にまとめています。
日本の夏は、スパーバムにとっては比較的過ごしやすい季節です。ただし真夏の西日と、梅雨どきの無風の蒸れには注意してください。明るい日陰に置き、サーキュレーターで風を通すだけで、夏の失敗はかなり減ります。
湿度は気にしすぎなくて大丈夫です。スパーバムの大きく厚い葉は、エレファントティスのような薄い葉の種類より水分の蒸発がずっと遅く、一般的な室内の湿度(40〜50%)にもよく耐えます。できれば50〜70%を目指し、冬の暖房で乾く時期は加湿器を使うか、ほかの植物とまとめて置きましょう。葉への霧吹きは控えてください。貯水葉の重なりに残った水滴は、カビの原因になります。
2mに広がる株の板付け
スパーバムで最も多い失敗は、最終的な大きさを甘く見ることです。園芸店で見かける30cmほどの株も、いずれ胞子葉が2mに広がり、しかも後から株分けで小さくすることはできません。
| 方法 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| 大きな木の板(スギ・ヒノキなど) | 見栄えがよく、壁掛けしやすい | 濡れると重く、丈夫な金具が必要 |
| ワイヤーバスケット | 全方向に風が通り、軽い | 迫力は控えめ |
| コルク板 | 自然な見た目で水はけがよい | 大判は高価 |
| ヘゴ板 | 根がよく張る | 大判は入手しにくく、年数で傷む |
板は少なくとも60cm、できればもっと大きいものを選びます。中央に長繊維の水苔を5〜8cmの厚さで盛り、産毛に覆われた成長点が上(12時の位置)に来るように根鉢を置き、テグスや針金で固定します。金具は1〜2シーズンで貯水葉に隠れます。胞子葉が垂れ下がれるよう、目の高さかそれより上に掛けてください。水を含んだ大株は想像以上に重いので、壁の下地に効く金具を使いましょう。手順はビカクシダの板付けのやり方にあります。
肥料の与え方
スパーバムは中程度に肥料を好みます。自生地では、貯水葉がつくる「巣」に落ち葉やごみが溜まり、それがゆっくり分解されて養分になります。まねる方法は2つです。
- 液肥: ハイポネックス原液などを観葉植物向けの倍率よりさらに薄め、春から秋は月1回、冬は控えるか6〜8週に1回にします。
- 緩効性肥料: マグァンプKのような粒状の肥料を、4〜6か月ごとに少量、貯水葉の裏に入れます。自然の分解に近い効き方です。
肥料が葉に直接かかると焼けの跡が残るので、水苔と根元に与えてください。量の目安はビカクシダの肥料にあります。
スパーバムとグランデの見分け方
この2種は常に取り違えられ、売り場の名札も間違っていることがよくあります。
| 特徴 | スパーバム | グランデ |
|---|---|---|
| 胞子のう | 胞子葉の裂片ごとに1つ | 裂片ごとに2つ |
| 原産地 | オーストラリア東部 | フィリピン(ミンダナオ島) |
| 保全状況 | 栽培下では一般的 | 絶滅が心配されている |
| 入手性 | 見つけやすい | 流通は非常にまれ |
| 貯水葉 | 締まって立ち上がる | 幅広く、垂れ気味 |
| 胞子葉 | やや厚みがある | 幅広く、より湾曲する |
胞子のうの数が決め手です。成熟した胞子葉を裏返し、各裂片の茶色い胞子のうを数えてください。1つならスパーバム、2つならグランデです。キュー植物園のPlants of the World Onlineではスパーバムの分布はクイーンズランドとニューサウスウェールズとされており、オーストラリア由来ならスパーバム、フィリピン由来ならグランデ、というのももう一つの手がかりです。
実際には、「グランデ」として売られている株のほとんどはスパーバムです。本物のグランデはコレクター価格が付くほど希少で、輸出も制限されています。どちらにしても育て方は同じで、必要なのは暖かさと、場所と、気長さです。
葉が黄色い・茶色い・育たないとき
葉が黄色くなる。 古い胞子葉は、新しい葉に入れ替わるときに自然に黄色く、茶色くなります。これは正常なので何もしなくて大丈夫です。若い葉が黄色くなる場合は、根鉢の水苔がびしょびしょでないか、酸っぱいにおいがしないかを確認してください。水のやりすぎや根腐れのサインです。詳しくは葉が黄色くなる原因を参照してください。
葉先が茶色くなる。 多くは湿度不足、水切れ、肥料焼けのどれかです。湿度を50%近くまで上げ、水やりを安定させ、肥料を多く与えていたなら真水で水苔を洗い流してください。葉先が茶色くなる原因も参考になります。
カイガラムシ。 板付けのビカクシダで最も多い害虫で、スプレーの届かない貯水葉の重なりのすき間に隠れます。数が少なければエタノールを含ませた綿棒で一匹ずつ取り除きます。板付け株での薬剤の使い方はカイガラムシ駆除ガイドと害虫のガイドにまとめています。
新しい葉が出ない。 寒さ、光不足、植え替えや板付け直後の負担のどれかです。18℃以上を保ち、明るい場所に移して、気長に待ってください。スパーバムは板付けのあと、成長を再開するまでに数か月かかることがあります。
スパーバムはどんな人に向いている?
スパーバムは、ビフルカツム・ビーチー・ヒリーと同じアジア・オーストラリアの系統に属します。単頭性なので増やすには胞子しかなく、胞子から板付けできる大きさになるまで3〜5年かかります。挑戦するなら胞子からの育て方を参照してください。
2mの広がりを受け止められる壁があり、分けて増やすコレクションより一株の主役がほしく、冬を室内で越させられるなら、スパーバムは良い選択です。
ビカクシダが初めてなら、より小さく丈夫で、子株を分けて増やせるネザーランドのほうが入り口としてはやさしいでしょう。ただ、場所があって、20年後も見る人を驚かせる株がほしいなら、スパーバムはその期待に応えてくれます。
