寒さで黒くなったビカクシダは、たいてい枯れていません。株の中心にある成長点が硬くて緑色なら、胞子葉がすべて黒くなっていても新しい葉を出します。 冷害や霜の被害は、まず外側の葉に出るので見た目ほど深刻でないことが多いのです。守るべきなのは、貯水葉の内側にある根茎と成長点です。

10月下旬から11月は、ビカクシダ(コウモリラン)を室内に取り込むか迷う時期です。取り込みが一晩遅れた、窓際で冷えた、寒波の予報を見落とした。そうした「やってしまった」株を前にしたときに、枯れたのか、まだ助かるのかを見分ける方法、切る葉と残す葉、回復までの過ごし方をこの記事でまとめます。品種ごとの耐寒温度と冬越しの全体像はビカクシダの冬越しで詳しく扱っているので、あわせて確認してください。

枯れたか、復活するかの見分け方

まず、寒さに当たった翌朝に判断しないでください。低温による傷みは数日かけて進み、翌朝は何ともないように見えた葉が、3日目に黒ずんで水に濡れたように透けてくることがよくあります。寒い夜から3〜7日待ってから、株の内側から順に確認します。

  1. 成長点を探す。 株の中心、貯水葉のすぐ手前で新しい胞子葉が巻きながら出てくる部分です。多くの品種では細かい白い毛(星状毛)に覆われています。詳しい位置はビカクシダの成長点を参照してください。
  2. 指先でそっと押す。 硬くて緑色、または白っぽい毛に覆われていれば生きています。茶色い、濡れている、ぬめる、軽く押しただけで崩れるなら凍みています。
  3. いちばん新しい葉の付け根を見る。 一番若い胞子葉が付け根で緑色をしてしっかりしていれば、成長点から水と養分が届いている良いサインです。
  4. 中心の匂いをかぐ。 酸っぱい、腐ったような匂いがすれば、株元で腐敗が始まっています。冷害の株が枯れる株に変わるのはこの段階です。
見た目何が起きたか枯れたか
胞子葉が黒や茶色、でも中心は硬く緑葉は凍みたが成長点は無事いいえ。 新しい葉が出ます
葉がくすんだ灰緑色で、しおれて少し透けている低温障害(0℃以上の寒さ)いいえ。 何枚かは枯れ込むことも
外側の葉の縁と先だけ茶色くパリパリ軽い霜が外側の葉に当たったいいえ。 見た目だけの被害
貯水葉が茶色いが乾いて紙のよう正常な老化、または寒さによる褐変いいえ。 そのまま残す
中心が柔らかく黒ずんで崩れる、酸っぱい匂い根茎が凍みて腐り始めているはい。 ほかに子株が残っていなければ

最後の行には例外があります。ビフルカツムやビーチー、ヒリーのように子株を出す品種は、子株ごとに成長点を持っています。親株がだめでも、貯水葉の裏に隠れた子株が生き残っていることがあるので、板ごと諦める前にすべての成長点を確認してください。

低温障害・霜害・凍害の違い

「寒さで傷んだ」といっても、起きていることは3種類あり、症状の出方が違います。

種類起きる条件症状被害を受けやすい品種
低温障害(冷害)氷はできないが2〜10℃の夜が続く葉がくすんだ灰緑色になり、数日後に水に濡れたような透けや黒い斑点が出る熱帯系:リドレイ・グランデ・コロナリウム・ワンダエ・エレファントティス
霜害晴れて風のない夜、気温0℃前後で葉の表面に霜外側の上向きの葉の先と縁が茶色〜黒に。内側の葉は無事なことが多い屋根のない場所に掛けたすべての品種
凍害氷点下が何時間も続く1〜3日で葉全体が黒くぶよぶよに。貯水葉が崩れ、水苔が凍る寒さに強い品種でも危険。ビフルカツムとビーチーが乾いた状態で短時間耐える程度

見落とされやすいのが低温障害です。リドレイを7℃のベランダに一晩置いても霜は降りませんが、1週間後に葉が黒くなることがあります。寒波のあとに出る黒い斑点は、カビではなく低温障害であることが少なくありません。見分け方は広がり方で、低温障害は寒い夜の直後に複数の葉に同時に出るのに対し、カビによる病気は一か所から始まって広がっていきます。

同じ温度でも、濡れている株は乾いている株よりはるかに大きな被害を受けます。水苔や葉の表面の水が凍って細胞を壊すためです。寒い夜の前の夕方に水をやった株は、隣の乾いた株より傷みがひどくなるのが普通です。

関東の平野部でも、真冬の明け方は郊外で0℃を下回る日が珍しくなく、放射冷却の強い晴れた夜は、屋根のないベランダの手すりに掛けた株の葉の温度が気温より低くなります。気温が2〜3℃の予報でも霜が降りるのはこのためです。

切る葉と残す葉

ルールはひとつです。ぶよぶよしたものは切る、乾いたものは残す。

  • すぐ切る: 柔らかい、ぬめる、匂う葉。腐った組織は株元に水分を溜め込み、根腐れを起こすのと同じ菌の入り口になります。消毒した刃で、硬い健康な組織のところまで切り戻してください。1か所切るごとに刃をアルコールで拭きます。
  • 新しい葉が出るまで残す: 茶色や黒でも、乾いて紙のようになった葉。光合成はもうできませんが、成長点を覆って寒さを和らげます。まだ寒い夜が続くなら、無料の防寒材です。新しい胞子葉が開いてから整理してください。
  • 絶対に切らない: 株元の貯水葉。茶色くなっていても正常で、水分を蓄えて根と根茎を守っています。理由は貯水葉が茶色くなる原因で説明しています。

根茎の状態を確かめたくても、貯水葉をめくって中をのぞくのはやめてください。確認は正面から成長点を見るだけで十分です。

冷害から回復させる過ごし方

回復の基本は「余計なことをしない」です。寒さで傷んだ株は葉の面積が減り、根も弱っているので、水も肥料も普段より必要としません。

することしないこと
15〜20℃前後で安定した、明るい場所に置くヒーターや暖房の吹き出し口のすぐそばに置く
水苔がほぼ完全に乾いてから水をやる日数で決めて水をやる。冷えた株元が濡れたままだと腐る
湿度は50%前後、空気がゆるく動く環境に傷んだ中心部に霧吹きをかける
新しい葉が出るのを待ってから結果を判断する肥料を与える。吸えない肥料が根を傷める(ビカクシダの肥料)
板やハンギングはそのままにする春まで板付けのやり直し・植え替え・子株の株分けをしない

回復までの目安: 室温15℃以上の部屋なら、成長点が生きている株は4〜8週で最初の新しい葉を出すことが多いです。10℃前後の涼しい部屋では春まで動かないこともありますが、それは正常です。1月に葉が少なく寂しく見えても、株の生死は成長点で判断してください。

水やりは特に慎重に。傷んだ株は吸う量が減っているので、普段の冬の間隔(12〜14日に1回)よりさらに空いても構いません。持ち上げて軽くなってから、暖かい日の午前中に常温の水を与えます。水苔の乾き具合の見方はビカクシダの水やり頻度にあります。

室内に取り込むタイミング

冷害のいちばんの対策は、そもそも寒さに当てないことです。取り込みは「初霜の予報が出たら」ではなく、夜の最低気温が品種ごとの目安を切り始めた週に行います。

グループ主な品種取り込みの目安(夜間最低気温)
オセアニア系(寒さに強い)ビフルカツム・ネザーランド・ビーチー・ヒリー・ウィリンキー・スパーバム10℃
アフリカ系(中間)アルシコルネ・エレファントティス・ステマリア15℃
熱帯アジア・南米系(寒さに弱い)リドレイ・グランデ・コロナリウム・ホルタミー・ワンダエ18℃

品種がわからない株や、複数の品種をまとめて管理しているなら、最低気温15℃前後で一律に取り込むのが安全です。東京や大阪の市街地なら、おおむね10月中旬から下旬がこのタイミングにあたります。もう取り込みが済んでいない株があれば、今週の予報を確認してください。

取り込んで最初の1か月で古い葉が1〜2枚黄色くなるのは、屋外より暗い室内の光に慣れる過程で、冷害ではありません。葉の色の変化の見分け方は葉が黄色くなる原因、冬の室内での置き場所や暖房との付き合い方はビカクシダの室内での育て方にまとめています。

寒波の夜の応急処置

すでに取り込んだ株でも、寒波の夜は窓際が冷え込みます。屋外で冬越しさせている寒さに強い株も含めて、急な冷え込みには次の対策をとってください。

  • 寒波の1〜2日前から水やりを控える。 乾いた株は、濡れた株より数℃低い温度まで耐えます。
  • 窓際の株は夜だけ窓から1mほど離す。 一枚ガラスの窓のそばは、暖房を切った明け方に5℃前後まで下がることがあります。カーテンと窓の間に株を置いたままにしないでください。
  • 屋外の株は軒下へ移すか、不織布をかける。 屋根があるだけで霜が葉に降りにくくなります。不織布は夕方にかけて朝に外します。ビニールが葉に直接触れると冷たさが伝わるので、葉から離してください。
  • 一晩だけの避難なら発泡スチロール箱や段ボール。 株を入れてふたを少し開けておくだけでも冷え込みを和らげられます。寒さに弱い品種を常に守りたいなら、冬越しの加温で紹介している簡易温室(ビニール温室)とパネルヒーターが確実です。
  • 翌朝、凍った株に水をかけたり日に当てたりしない。 日陰でゆっくり温度を戻してください。凍った組織に強い日が当たると、被害が広がります。

窓際の夜の温度は、思っている以上に下がります。ホームセンターや通販で手に入る、最高・最低温度を記録できる温湿度計を株のそばに置いておくと、「何℃まで下がったか」が翌朝にわかり、置き場所を決める根拠になります。冷え込んだ日と株の様子を記録しておけば、来年の取り込み時期の判断にも役立ちます。ビカクログでは株ごとのお世話記録にメモを残せます。

寒さとは関係なさそうな症状が出ている場合は、ビカクシダの害虫や葉先が茶色くなる原因もあわせて確認してください。